プラセボ薬(偽薬)とは、有効成分が入っていない、見た目だけお薬の形をしたもの。中身は乳糖などで、いってしまえば”砂糖の塊”です。でも、薬局で働いていた頃、このプラセボ薬は介護の相談の中でたびたび登場しました。
CHIKA先に、大事なところだけ。
- “お薬を飲む”という行為そのものが、人を落ち着かせることがある
- ただし、家庭で取り入れる前に、まずは主治医に相談を
- 市販されている偽薬(プラセプラスなど)も存在する
「偽物の薬」の役割と、心と体のつながりのお話を薬剤師の目線でしてみます。
プラセボ薬(偽薬)とは?
プラセボ薬とは、有効成分を含まない、お薬そっくりに作られたもの。白い錠剤の形をしていたり、本物のようにシートに入っていたりしますが、中身は乳糖やでんぷんなどで、薬としての効き目を持つ成分は入っていません。
「プラセボ(placebo)」という言葉は、もとはラテン語の「私は満足するだろう」に由来すると言われています。なんだか、この薬の本質を言い当てているようで、私は好きな言葉です。
ここで一つ、見方を変えてみてほしいんです。プラセボ薬は「効果がない薬」ではなくて、「成分以外の部分を担う薬」。…この記事で伝えたいのは、そこにあります。
薬剤師として現場で受けた、介護の相談
薬局にいた頃、こんな相談を受けることがありました。
ある介護施設で、認知症のおばあちゃんが、夜になると決まって「睡眠薬がほしい」と騒いでしまう。でも本物の睡眠薬を渡すと、夜中に起きたときにふらついて転んでしまう…そういう二次被害が起こりかねません。だからご家族は「できるだけ夜は睡眠薬を使いたくない」と望んでいました。
(しかし、介護施設の方はお困りだったのです。)
そして、ご自宅で介護をされている方からも、よく似た相談がありました。
どちらの方にも、私はまず「一度、お医者さんに相談してくださいね」とお伝えしました。そのうえで、こんな話もしたんです。――本物のお薬ではなく、乳糖やビタミン剤、整腸薬を「これは睡眠薬だよ」とお渡しすることで、気持ちが落ち着くことがあります、と。いわば”優しい嘘”です。
お医者さんに相談すると、こうしたプラセボを出してくれることがあります。
「乳糖を偽薬として処方するなんて、全額自費(10割負担)になるのでは?」と思われがちですが、扱いはケースバイケース。
このあたりは個別の判断になるので、こういった意味でも最初の一歩は主治医への相談ですね。
思い込みは、本当に作用するの?──でも”嘘”でいいの?
「気休めでしょ?」と思われるかもしれません。でも、思い込みによって心や体が変化することは、昔から知られています(くわしい仕組みは別記事「プラセボ効果のしくみ」に書いたので、そちらへ)。
ただ、ここで実際に伺った失敗談を一つ。
「何か、白くて薬に見えるものがあればいいかな」と、お菓子のラムネをあげてみた、という方がいました。…結果は、すぐにバレてしまったそうです。



たぶん・・あの味と、シュワシュワ感ですよね。やっぱり”薬らしさ”って、案外あなどれないんだなぁと思った出来事でした。
それと、忘れてはいけないのが「相手を騙している」という後ろめたさ。
これは、とても自然な感覚だと思います。だからこそ、本人の尊厳を傷つけない範囲で、そして必ず医療者と相談しながら――が大前提。優しい嘘は、あくまで”その人が安心するため”のものであってほしいんです。
声かけそのものが”薬”になる──乳糖のおばあちゃんの話
これも、実際にあったお話です。
ずっと「乳糖」を睡眠薬だと思って飲んでいたおばあちゃんが、ある日こう言ったそうです。



このお薬、私にとてもよく合っていて、よく眠れるの。でも…なぜ粉薬なの?粒のやつはないの?
…これは。。中身はただの乳糖なので、粒のものに変えるわけにもいきません。
このときは、先生がご本人とお話をして、こう伝えたそうです。



〇〇さんに合っているのはこれだから、今は変えないほうがいいと思うよ。でもね、このお薬は粉しかないんだ。
…結果、納得されたそうです。
私はこの話を聞いて、しみじみ思いました。
お医者さんの「声かけ」そのものが、もう立派な薬なんだなぁ、と。
成分でも、剤形でもなく、信頼している人の言葉が、その人を安心させる。プラセボ薬が教えてくれるのは、結局これなのかもしれません。
プラセボ薬は市販で買えるの?
買えます。偽薬を専門に作っている「プラセボ製薬」という会社があります。
・プラセボ製薬 公式サイト:https://corp.placebo.co.jp/
ここには、本物そっくりにPTPシートへ入った錠剤タイプの偽薬(プラセプラス)や、貼り薬タイプ(プラセパッチ)まであります。Amazonなどで、ふつうに購入できますよ。
実は私、薬局にいた頃から「シートに入った錠剤の偽薬があればいいのに」と、ずっと思っていました。
乳糖は粉なので、粉が飲みにくいお年寄りもいる。かといってビタミン剤や整腸薬は、偽薬といっても”有効成分”が入っている…。そのちょうど間を埋めてくれるものが、もう商品として存在していたんですね。
見つけたときは、なんだか嬉しくなりました。
まとめ
プラセボ薬は、「インチキな薬」ではありません。むしろ、薬の”成分以外の力”と、”言葉の力”を私たちに教えてくれる存在だと、私は思っています。
効くのは、成分だけじゃない。”お薬を飲む”という行為と、信頼している人の声かけが、人を落ち着かせることがあります。
――それは、薬に頼りすぎずに心地よく暮らしていくうえでも、知っておくと少し気持ちが軽くなる視点かもしれません。











