はじめに
「どれだけ寝ても疲れが取れない」「頭が重くて仕事に集中できない」
そんな疲労感が、半年以上も続いたらどうしますか?
もしかすると、その背景にはEBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)という感染症が関係しているかもしれません。近年、EBウイルスと慢性疲労症候群(CFS)**との関連を探る研究が世界中で進んでおり、少しずつ新しい事実がわかってきています。
この記事では、専門的な内容をなるべくかみ砕いて、最新の研究結果をわかりやすくお伝えします。
EBウイルスとは?
1. 「キス病」とも呼ばれるウイルス
EBウイルスは、ヘルペスウイルス科に属するウイルスで、多くの場合は唾液を介して感染します。そのため、欧米では「キス病」と呼ばれることもあります。
- 感染経路:唾液、食器の共有など
- 感染率:日本人の成人の90%以上が一度は感染
- 症状:初感染時に「伝染性単核球症」と呼ばれる発熱や倦怠感を伴う病気になることがあります
ただし、多くの場合は軽症か無症状で終わり、自然に治ります。
2. 一度感染すると「一生体の中に潜む」
EBウイルスはBリンパ球という免疫細胞に潜伏し、体の中に一生残ります。普段は眠っているような状態ですが、**体の免疫力が落ちたときに再び活動を始める(再活性化する)**ことがあります。
慢性疲労症候群(CFS)とは?
1. ただの疲れではない
慢性疲労症候群(CFS)とは、強い疲労感が6か月以上続き、休んでも回復しない状態が続く病気です。近年は筋痛性脳脊髄炎(ME)とも呼ばれます。
主な症状は以下のとおり:
- 強い疲労感(体を動かせないほど)
- 頭痛や筋肉痛
- 睡眠障害
- 集中力・記憶力の低下
- 発熱やのどの痛み
国内では、患者数は推定数万人以上と言われていますが、正確な診断が難しく、「気のせい」や「なまけ病」などと誤解されることも少なくありません。
2. 発症のきっかけは「感染」かも
最近の研究では、感染症をきっかけにCFSが発症するケースが注目されています。特に、EBウイルスによる「伝染性単核球症」にかかった後、10人に1人の割合で慢性的な疲労が続くことが報告されています。
EBウイルスと慢性疲労症候群の最新研究
ここからは、近年の研究でわかってきたことをお伝えします。
1. EBウイルスは「再活性化」する
最近のアメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究では、慢性疲労症候群(CFS)患者の一部でEBウイルスが再び活動している証拠が見つかっています。
- 血液中のEBウイルス関連抗体が高値になる
- ウイルスが作り出す特殊なタンパク質(dUTPase)に対する免疫反応が強い
つまり、昔かかったEBウイルスが再び目を覚まし、体に悪影響を与えている可能性があるのです。
2. 免疫のバランスが崩れている
CFS患者では、免疫細胞の働きがアンバランスになることもわかってきました。
- 体が「常にウイルスと戦っている」ような状態になる
- 炎症物質(サイトカイン)が増え、だるさや痛みが強まる
- 自分の体を攻撃する自己抗体ができる可能性もある
「疲れが取れない」という症状の背景に、こうした免疫異常が隠れていると考えられています。
3. 自律神経や脳にも影響
2024年の研究では、CFS患者の脳や自律神経にも異常が見られることが発表されました。
- 脳の一部で血流が低下
- 自律神経の乱れにより、立ちくらみや動悸が出やすい
- 代謝機能も低下し、エネルギーがうまく作れない
EBウイルスそのものだけでなく、再活性化が引き金となって体全体のバランスが崩れる可能性が指摘されています。
治療はどうなる?
1. 抗ウイルス薬は「一律では効かない」
過去の臨床試験では、EBウイルスに効く薬(アシクロビルなど)をCFS患者に投与しても、全体的な効果は見られませんでした。
しかし、一部の患者(EBウイルス再活性化が強いタイプ)では改善が見られたという報告もあります。
今後は「すべてのCFS患者に同じ薬」ではなく、原因ごとに治療法を分ける方向に進んでいます。
2. 日常生活でできる対策
現時点では「根本治療薬」はありませんが、次のようなケアが有効とされています。
- ペーシング(pacing)
→ 無理をせず、体力を超えない範囲で生活する - 睡眠の質を高める工夫
→ 寝る前のスマホを控える、就寝リズムを一定に - 栄養管理
→ 鉄・ビタミンB群・タンパク質不足を避ける - ストレスケア
→ 瞑想や深呼吸など、自律神経を整える習慣
「ただの疲れ」じゃないときのサイン
もし次のような症状が半年以上続く場合は、一度医療機関に相談することをおすすめします。
- 睡眠をとっても疲れが取れない
- 微熱が続く
- のどの痛みやリンパ節の腫れが長引く
- 集中力が著しく落ちている
- 立ちくらみや動悸がある
EBウイルスの再活性化を調べる血液検査もあり、必要に応じて抗体検査を行うこともあります。
まとめ
- EBウイルスは、多くの人が一度は感染する「ありふれたウイルス」
- 一度感染すると体に潜伏し、免疫が落ちると再活性化することがある
- 最近の研究で、EBウイルスの再活性化と慢性疲労症候群(CFS)の関連が注目されている
- まだ治療法は確立していないが、原因別の治療や生活習慣改善が研究されています