今回は、いつも薬局を利用されている女性の患者さんから伺った「バリウム検査で腸に穴が開いた」というお話です。バリウム検査のリスクと現状について、いろいろ調べてみましたので皆さんにシェアします!
◆「バリウム検査で腸に穴が開いた」と話す患者さん
数年前の話ですが。。
ある日、いつも利用してくださっている女性が処方箋を持って薬局に来られました。
処方内容は数種類の薬。
いつもの薬ではなく、また来局歴を見ると少々お久しぶりでした。

入院してたのよ。バリウム検査で腸に穴が開いちゃって……やっと退院できたわ~



バリウム検査で腸に穴?
最初は耳を疑いましたが、調べてみるとバリウム検査による腸穿孔(せんこう)=腸に穴が開くという事例は、実際に医学的に報告されているのです。
◆バリウム検査とは?
バリウム検査(正式には「バリウム造影検査」)は、消化管の形や動きをX線で確認するための検査です。
白い造影剤「硫酸バリウム」を飲んだり、肛門から注入して、胃や腸の形を映し出します。
日本では長年、胃がん検診や腸の形の確認に広く用いられてきました。
特に40代~60代の方なら、「健診でバリウムを飲んだことがある」という方も多いでしょう。
◆腸に穴が開くことは本当にあるのか?
結論から言うと、非常にまれではあるものの、実際に起こることがあります。
国内外の論文では、
- 注腸造影(バリウムを腸から注入する検査)での腸穿孔の発生率は 0.02~0.23%
- 重症化すると死亡率50%に及ぶとの報告もある
とされています。
つまり、「数千~数万人に1人」という確率ですが、起きてしまうと重篤になるリスクがあるのです。
◆なぜ腸に穴が開くのか?
腸に穴が開く(穿孔)原因はいくつかあります。
原因 | 内容 |
---|---|
腸壁の弱化 | 潰瘍性大腸炎、憩室炎、腫瘍などで腸壁がもろくなっている場合 |
圧力のかかりすぎ | バリウムや空気を過剰に注入した場合 |
機械的損傷 | チューブ操作中の外傷やバルーン過膨張 |
高齢やステロイド使用 | 組織が脆弱化しやすい |



こうした条件が重なると、検査中や直後に腸壁が破れてしまうことがあるようです。
◆穿孔が起きるとどうなるのか
腸に穴が開くと、腸内の内容物(便やバリウム、細菌)が腹腔内に漏れ出します。
これにより「腹膜炎」や「バリウム腹膜炎」を起こすことがあります。
特にバリウムが漏れると、化学的な炎症を起こしやすく、場合によっては腹部全体の炎症・高熱・ショック状態になることもあります。
治療には、
- 手術による修復・洗浄
- 抗生物質の投与
- 点滴・絶食管理
が必要になります。
回復には数週間~1か月近くかかることもあり、冒頭の患者さんもまさにそうした経過をたどられたとのことでした。
◆バリウム検査後に注意すべきサイン
検査後、以下の症状が出たらすぐに医療機関を受診してくださいね。
- 強い腹痛・張り
- 発熱や寒気
- 嘔吐や吐き気
- 白い便が続く
- 便が出ない・極端な便秘
特に、「便が出ない」状態は危険信号です。
腸内でバリウムが固まって「バリウム糞石」になり、腸閉塞を起こすこともあります。



検査が終わって水を沢山飲んでも何か残っている気がしていたのよね。。
で、そのうちにものすごくお腹が痛くなって。
バリウムが腸にへばりついたまま固まっているような感じだったんですって。
◆現在のバリウム検査の現状
日本では、バリウム検査は依然として行われていますが、年々減少しているようですね。
- 胃がん検診では「バリウム検査」または「内視鏡検査」の選択制。
- 一部自治体(例:東京都多摩市など)はバリウム検査を廃止し、内視鏡へ移行中。
- 一方で、人間ドックなど民間健診ではまだ多く行われています。
つまり、完全に廃止されたわけではありませんが、主流ではなくなってきているというのが現状です。
◆なぜ減ってきたのか?
検査の信頼性・安全性・利便性の面で、内視鏡が優位になっているようですね。
理由 | 内容 |
---|---|
精度 | 内視鏡のほうが病変を直接観察でき、精度が高い |
リスク | バリウム誤嚥・腸閉塞・穿孔などのリスク |
被ばく | X線による放射線被ばくがある |
技術進歩 | 内視鏡・CTコロノグラフィーが普及した |
◆検査を受けるときに気をつけたいポイント
① 検査前に持病・薬を伝える
腸の病気やステロイド服用中の方は穿孔リスクが上がります。必ず事前に伝えましょう。
② 検査後は水分をしっかり摂る
バリウムは腸内で固まりやすいため、検査後は多めの水分摂取が必須です。
③ 排便が2日以上ない場合は受診
「白い便が出ない」「お腹が張る」などの症状は早めに医師へ。
④ 強い腹痛・発熱・吐き気は救急受診を
穿孔・腹膜炎の可能性があります。迷わず医療機関へ!
◆今回の患者さんの話を通じて感じたこと
「健診で腸に穴が開いた」という言葉は、今でも印象に残っています。
検査は「体のために行う」ものですが、どんな医療行為にもわずかでもリスクがあるという現実を、あらためて考えさせられました。
患者さんは・・・



まさか健診でこんなことになるなんて思わなかったけど、いまは元気にご飯が食べられるだけで幸せ。
検査を受けるときは、医師とよく相談し、「自分に合った方法を選ぶ」ことが大事ですね。
◆まとめ
- バリウム検査で腸に穴が開くことは、まれだが実際に報告されている。
- 発生率は0.02~0.23%と非常に低いが、重症化すれば命に関わる。
- 現在は内視鏡検査への移行が進み、バリウム検査は減少傾向。
- 検査後の腹痛・発熱・便秘は「異常のサイン」—早めの受診を。
- 検査を受ける際は、リスクとメリットを理解した上で選択を。
検査は「病気を見つけるための味方」ですが、
体への負担やリスクを知ることで、より安心して向き合うことができます。
これからも「検査後のケア」や「体のサインを見逃さない大切さ」を皆さんに伝えていきたいと思います。