「最近眠れなくて…」薬局ではそんな言葉を一日に何度も耳にしました。実は日本人の約5人に1人が何らかの不眠症状を抱えているといわれ、まさに日本は「不眠大国」と呼べる状況だと思います。
睡眠薬は一時的には効果的ですが、依存性の問題や日中の眠気などの副作用も無視できません。私は薬を渡しながらも「本当に必要なのは生活習慣の改善かもしれません」とお伝えすることが多いです。
現代社会のストレスや生活リズムの乱れから、質の高い睡眠を取ることが難しくなっているのだと思います。睡眠薬は一時的な解決策になりますが、依存性や副作用の心配もあるため正直なところ使ってほしくないのです。
70代の女性が「眠剤を飲み続けるのが怖い」と相談に来られたり、30代の会社員の方は「スマホを見ていると気づいたら夜中の2時…。」と嘆いておられました。このような「睡眠にまつわる悩み」は年齢を問わず増加している印象があります。
薬だけが眠りを作るわけではありません。
人間の体にはもともと“自分で眠る力”が備わっています。
この力を取り戻してあげることで、少しずつ薬に頼らず眠れるようになる方がたくさんいらっしゃいますので今回の記事が参考になれば幸いです。
① 体温のリズムを整える ― 「ぬるめの入浴」で眠気を呼ぶ
眠気は、体温の「上昇→下降」によって生まれます。
この仕組みを利用して、就寝の1〜2時間前に37~40℃前後のぬるめのお湯に15分ほど浸かりましょう。

真冬の37℃は寒いと思うので、季節によって調整ですね。
「体がポカポカして、のぼせない程度」がポイントです。
入浴で一度体温が上がり、その後ゆっくり下がるときに自然な眠気が訪れます。
シャワー派の方は、せめて足湯でもOK。
「温まって、冷めていく」流れを意識するだけで、眠りの質が変わります。
一般的な入浴温度は次のように分類されます
お湯の温度 | 呼び方 | 主な効果・体感 |
---|---|---|
37〜39℃ | ぬるめ(微温浴) | 副交感神経が優位になり、リラックス効果・入眠促進 |
40〜42℃ | やや熱め〜普通 | 交感神経が刺激され、血流促進・リフレッシュ効果 |
43℃以上 | 熱め | 強い刺激・覚醒・血圧上昇の可能性 |
② 光を味方につける ― メラトニンのリズムを守る
夜遅くまでスマホを見ていませんか?
夜間に強い光を浴びると、メラトニン(体内時計に関わるホルモンです)の分泌は著しく抑制され、その結果、睡眠の開始や維持が妨げられる可能性が高いです。



ちなみに処方薬の「ラメルテオン(商品名:ロゼレム)」はこのメラトニンに似せて作られたお薬です。
寝る1時間前には、スマホやパソコンの画面から離れ、部屋の明かりもやや暗めに。
できれば、間接照明やキャンドルのような暖色系の光に変えてみてください。
それだけで副交感神経が優位になり、心が静まっていきます。
そして朝は、起きたらすぐにカーテンを開けて太陽の光を浴びましょう。
これが「体内時計のリセット」になり、夜に自然な眠気がやってきます。
メラトニンと光 — 基本的なしくみ
- メラトニンは体内時計(サーカディアンリズム)に関わり、夜間・暗期に分泌が上がるホルモン(松果体で産生)です。
- 光、特に目に入る光(網膜を介して)、はメラトニンの合成・分泌を抑制する作用があります。
- この抑制作用は「夜に暗闇が来たことを“昼ではない時間帯”として体に知らせる信号系」の一部と考えられています。
- 光の強さ、波長、時間(いつ浴びたか)などが、その抑制効果の大小を決定します。



「スマホのブルーライト程度では夜の睡眠には影響しない」という話も最近ありますが、スマホから脳に入る情報自体で脳が興奮状態になってしまうということもあるんでしょうね。
③ 考えすぎる脳を休ませる ― 呼吸する&書き出す
眠れない人の多くは、「脳が休めない」状態です。
布団に入っても、今日の出来事や明日の予定を考え続けてしまう…。そんなときは、呼吸法。
単純に深呼吸することでも大分違うと思いますが、「4秒吸って、7秒止めて、8秒で吐く」―この“4-7-8呼吸法”を3セット行うと、副交感神経が優位になり、体も心もゆるんでいきます。
いつでもどこでも、気が付いた時にすぐ出来ますし本当にお勧めです。
「書く」ことで頭を整理することもすごく良いです。
ノートに「明日やること」「今気になっていること」を何でもいいのでノートに書き出すと、脳は“もう処理済み”と認識し、安心して休息モードに入れます。



「ジャーナリング」と呼ばれる”書く瞑想”は私もやってます!
④ 腸から眠りを整える ― 腸脳相関を味方に
「腸は第二の脳」と呼ばれるほど、脳と密接につながっています。
腸が不調だと、幸せホルモン「セロトニン」の分泌が減り、結果的に睡眠ホルモン「メラトニン」にも影響します。
ですから、腸を整える=眠りを整えること。
・発酵食品(納豆、味噌、ヨーグルト、ぬか漬け)
・食物繊維(野菜・海藻・オートミールなど)
・夜食を控え、夕食は寝る3時間前までに
腸が穏やかに動き出すと、心も不思議と静まり、自然と眠りやすくなります。


⑤ 眠りの儀式をつくる ― 安心感が眠りを呼ぶ
人は「安心」を感じたときに眠れる生き物です。
寝る直前まで仕事やニュース、SNSを見ると、脳が興奮して“闘うモード”になります。
眠る前は、少しだけ“自分をいたわる時間”をつくってください。
例:
・カモミールやラベンダーのハーブティーを飲む
・アロマを焚いてリラックス
・静かな音楽や読書を楽しむ
毎晩この時間を繰り返すことで、脳が「これをしたら眠る」と学習していきます。
安心感は最高の睡眠薬ですね。
⑥ 日中の光と動き ― 太陽とともに眠りを作る
不眠の方の多くが、日中に太陽を浴びていないな・・と感じていました。メラトニンは“朝の光”によってリセットされるため、朝〜午前中に15〜30分ほど外に出る習慣をつけましょう。
また、体を軽く動かすこともとても大切です。
ウォーキングやストレッチなど“軽く汗ばむ程度の運動”が理想ですが、いつもは自転車を使う距離も歩いてみるなどちょっとしたことでもいいと思います。
体にほどよい疲労があると、自然に深い眠りに入れます。
年齢を重ねると体の不調(痛みなど)で外出することができない、日中の活動量が少ないため眠れない・・ということが多々あるように思います。
⑦ 思考を整える ― 「眠れない自分を責めない」
「今日も眠れない」「明日が不安」――この思考が眠りを遠ざけます。
心理療法のひとつに「認知行動療法(CBT-I)」という方法がありますが、これは“眠れない不安”をやわらげる非常に有効な手法です。
たとえば、
・「眠れなくても、体は休んでいる」
・「今夜はだめでも、明日はまた眠れる」
と考えてみてください。
“眠れないことを否定しない”ことで、脳は安心し、自然に眠りのスイッチが入ります。
眠りは“頑張るもの”ではなく、“訪れるもの”なのですね。
⑧認知シャッフル睡眠法
羊が1匹・・羊が2匹・・・
眠れない時は羊を数えるといいというのは昔から何故か言われていますね。単純に数を数えるという作業をしているうちにいつの間にか寝てしまう・・という理屈だと思います。
前に薬局にいらした患者さんが



羊を数えていても、その数が途中からわからなくなって気になって眠れなくなる
とおっしゃってました。
これはご本人にとっては逆にストレスなのだ・・・と思いましたね。。
そこで「認知シャッフル睡眠法」というものがあるのでお伝えしました。
これは「ランダムな単語を次々にイメージして眠りやすい状況を作り出す」という方法です。と、言ってもランダムな単語を次々イメージするって結構難しいので、携帯のアプリを使ったりします。
単純に全く脈略のない言葉が読みあげられていくだけですが、それを聞きながら思い浮かべるんです。
初めのうちは「こんなので眠れるわけない」と思ってやってみましたが、結構すぐに寝てしまった自分がいました(笑)。
睡眠薬をやめたいときの注意点
ここで一つ大切なことを。
今睡眠薬を服用している方、睡眠薬は決して突然やめてはいけません。
とくにベンゾジアゼピン系(ハルシオン・レンドルミンなど)という薬剤を長期間使っている方は、急にやめると離脱症状(不安・動悸・震えなど)が出ることがあります。
やめたいときは、必ず減薬専門の医師や薬剤師と相談しながら、
・用量を段階的に減らす
・半減期の短い薬へ切り替える
・同時に生活習慣とリズムを整える
という“計画的な減薬”を。
焦らず、少しずつ。体のリズムを取り戻すことが大切です。



近年は「減薬外来」という科を掲げているクリニックなどもありますので検索してみてくださいね。
おわりに ― 「眠る力」は誰の中にもある
薬に頼らず眠れるようになる道のりは、決して一瞬ではありません。
けれど、体も心も本来のリズムを取り戻していく過程には、確かな“変化”があります。
薬をやめることが目的ではなく、
「自分の眠る力を信じられるようになること」が本当のゴールです。
少しずつでも大丈夫!
体をあたため、光を調え、呼吸を整えて――。
きっとあなたの中にも、静かな眠りが戻ってきます。