最近「原因不明の皮膚のかゆみ」「なかなか治らない湿疹」といった相談を受けることが増えてきました。
「しっかりスキンケアをしているのに治らない」——その背景には、実は毎日の生活で使う日用品や化粧品に含まれる成分が関わっている場合もあるのです。
今回は・・
・皮膚から化学物質は吸収されるのか
・日用品に含まれる成分がどんな影響を及ぼすのか
・安全に健やかな肌を守るためにできること
についてお伝えします。
1. 皮膚の役割
皮膚は単なる「外のカバー」ではありません。外界からの刺激や異物を防ぐバリア機能を持ちながら、一部の成分は皮膚を通過して体内に取り込まれることが知られています。
皮膚の主な機能
まず、基本的に皮膚がどのような役割を担っているのか見てみましょう!
- バリア機能(防御)
外部からの病原菌や化学物質が体内に入らないように守ります。 - 排出機能
汗腺を通じて汗を出し、老廃物や体温調節に関わります。 - 感覚機能
触覚・痛覚・温度感覚をキャッチします。 - 吸収機能(限定的)
脂溶性の物質や、分子量の小さい物質は一部が皮膚から吸収されます。
ここで今回は上記の「4」について考えています。
「吸収」の実際
皮膚には「角質層」というバリアがあるため、大きな分子や水溶性の成分はほとんど通過しません。

しかし、脂溶性で分子が小さいもの(例:一部のビタミン類、ステロイド外用薬、有機溶剤)は皮膚から体内に吸収されることがあります。
【補足】皮膚からの吸収性まとめ
区分 | 吸収されやすい成分の例 | 吸収されにくい成分の例 | 解説 |
---|---|---|---|
脂溶性・小分子 | ビタミンA(レチノール)、ビタミンD、ビタミンE、ステロイド外用薬、ニコチン(パッチ) | 大きな分子(コラーゲン、ヒアルロン酸) | 脂溶性で分子量が小さいと角質層をすり抜けやすい |
水溶性成分 | アルコール、尿素(高濃度では浸透促進作用も) | ビタミンC(そのままでは吸収しにくいが、脂溶性誘導体は浸透) | 水溶性成分はバリア(角質層の脂質)でブロックされやすい |
オイル系 | スクワラン、ホホバ油など(表面になじむ) | 鉱物油(ミネラルオイル、大きめ分子) | 油は肌表面に広がるが、浸透というより“なじむ”イメージ |
ペプチド・タンパク質 | 小さなペプチドは一部浸透 | コラーゲン、エラスチンなどの高分子 | 化粧品に含まれるコラーゲンは保湿目的であり、体内に届くわけではない |
特殊ケース | 医薬品パッチ製剤(ホルモンパッチ、痛み止めパッチなど) | – | 医薬品は吸収を狙って処方設計されている(浸透促進剤を配合) |
医療では「経皮吸収型製剤(貼り薬)」として利用されていて、ニコチンパッチやホルモン補充パッチなど色々ありますね。これは「皮膚からも薬が体に入る」ことの証拠です。



あと、皮膚の状態が乾燥していたり炎症や傷があると吸収率は上がります。湿度や温度、パックのような“閉塞状態”では浸透が強まります。
このため、同じ成分でも人によって、皮膚の状態によっても吸収される量は大きく異なります。
2. 気をつけたい日用品の成分
パラベン(防腐剤)
化粧品やシャンプーに広く使われる成分です。細胞実験ではホルモン作用を持つ可能性が報告されていますが、人における明確な因果関係は証明されていません。欧米や日本の規制当局も「使用条件内であれば安全」としています。ただし敏感肌の方や小さなお子さんには避けたいと考える方も多く、「パラベンフリー」を選ぶ人が増えていますよね。
フタル酸エステル類(可塑剤:かそざい)
香料やプラスチックに使われることがあり、一部は生殖や発達への影響が疑われています。EUでは特定の種類が規制対象になっています。



可塑剤(かそざい)とは、プラスチックを柔らかく扱いやすくするために加える成分のことです。
プラスチックはもともと、硬くて割れやすい性質を持っていますが、可塑剤を混ぜることで分子同士の結びつきがゆるみ、しなやかになり、加工しやすくなります。
乾いて固くなった粘土に水を少し足すと、急にやわらかくなって形を変えやすくなる・・というイメージですかね。
トリクロサン(抗菌剤)
歯磨き粉や石けんに使われてきましたが、環境や耐性菌への懸念から規制が強まり、日本でも使用が減っています。
香料
「香料」とまとめて表示されますが、複数の成分の混合物です。香り自体は心地よいものですが、敏感肌の方にはアレルギーやかぶれの原因になることもあります。
界面活性剤
界面活性剤は、水と油のように本来は混ざりにくいものをなじませる性質を持つ物質です。



例えば、洗顔料で「皮脂や汚れ(油性のもの)」を「水」で洗い流せるのは、界面活性剤が橋渡しをしてくれているからです。
作用のイメージとしては「泡立つ」「汚れを浮かせる」「乳化(クリームのように水と油を均一に混ぜる)」などがあります。皮膚用品や化粧品、シャンプー、洗顔料などに広く使われています。
3. 「カクテル効果」という考え方
単一の成分であれば安全性が確認されていても、複数の成分が混ざり合ったときの影響までは十分に解明されていません。これを「カクテル効果」と呼びます。特に、日常生活ではシャンプー、洗剤、化粧品…と多種類の製品を同時に使うため、トータルの曝露(ばくろ)量が大切になります。
4. 実際にあった患者さんのケース
30代女性の患者さん。長引くかゆみと赤みで皮膚科を受診し、薬も試したけれど改善しませんでした。生活習慣に大きな問題はなく、スキンケア製品を確認すると「強めの香料入り化粧水」を長く使用されていました。
試しに無香料・低刺激性の化粧品に切り替えてもらったところ、数週間で症状が落ち着いてきました。



なかなか症状が改善しないためかなり長くステロイドも使用されていたようで、これが悪化に拍車をかけていたのかと。。
ステロイドは一時的に症状が改善されますが長く使っていると皮膚が薄くなり、皮膚のバリアも壊れてしまいます。
もちろんこれは一例で、すべての人に当てはまるわけではありません。しかし「日用品の見直し」が症状改善のきっかけになることは少なくないです。
肌から吸収される化学物質の影響は即座に現れるものではなく、長年にわたる蓄積によって健康被害につながる可能性があります。特に子どもや妊婦さんは、これらの化学物質の影響を受けやすいため、使用する製品には細心の注意が必要ですね。
5.では、どうしたらよい?
また、自分の体に合った製品を見つけるために、使用感や肌の反応を記録することも良いと思います。特定の成分で肌トラブルが発生するパターンが見えてくるかもしれません。



自分の肌(体)との対話ですね
そして、使用する製品の数自体を減らすこと。最小のスキンケアに切り替えることで、肌に負担をかける化学物質の総量を減らすことが狙いです。
成分表示を確認する習慣をつけ、オーガニック認証を受けた製品を選ぶこともいいですよね。更に、定期的なデトックスケアとして、発汗を促す運動や水分摂取の増加もお勧めです。
今回は主に「肌の吸収機能」についてお話を進めてきましたが、お勧めの製品やデトックスなどについてもまた記事にしていきたいと思います!