今回は、私が実際に薬局のカウンターで出会ったある患者さんのお話をきっかけに、「やわらかティッシュによる皮膚トラブルの可能性」についてお話ししたいと思います。
■ある日のカウンターで
ある日、鼻のまわりが真っ赤になって炎症を起こしている患者さんが来局されました。
その方は40代の女性で、花粉症と軽い風邪を併発しており、「鼻のかみすぎでヒリヒリして痛いんです」とのこと。
皮膚科に行かれて、持ってきてくださったその処方箋を見ると弱めのステロイドの塗り薬が処方されていました。
実際にマスクを取って患部を見せてくださいましたが、本当にビックリするくらい真っ赤になってました!!
医師の診断は「やわらかティッシュによる接触性皮膚炎」。

え? やわらかティッシュで炎症?
最初は私も耳を疑いました。むしろ肌に優しいイメージがある製品ですよね。
しかし調べてみると、この“やわらかさ”の裏側には、いくつかの「肌トラブルのリスク」が潜んでいることが分かってきたのです。
■“やわらかさ”の秘密:保湿成分入りティッシュ
近年人気の「やわらかティッシュ」や「保湿ティッシュ」は、各社が独自の保湿技術を競い合っています。
例えば各商品を見てみるとこのような記述が。
- 製品A:植物性スクワラン、ソルビトールなどの保湿成分を配合
- 製品B:グリセリン、コラーゲン、ヒアルロン酸を配合
- 製品C:植物性保湿成分+コラーゲンを配合
- 製品D:保湿成分を塗布したローションティッシュ
これらはいずれも「肌ざわりをよくする」「鼻をかんでも痛くない」というメリットがあります。
しかし一方で、皮膚が敏感な方やバリア機能が落ちている状態では、保湿成分そのものが刺激やアレルギーの原因になることがあるのです。
■原因は“こすれ”+“保湿成分”のダブルパンチ
花粉症や風邪で鼻を頻繁にかむと、まず物理的な摩擦で角質層が傷つきます。
この段階で、皮膚のバリアが壊れ、外部刺激に弱くなってしまう。
その状態で「保湿ローション入りティッシュ」を使うと、成分が直接バリアの壊れた皮膚に触れ、刺激性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎を引き起こすことがあるのでしょう。
特に報告があるのは以下のような成分です。
成分 | 特徴・作用 | 稀に報告される皮膚反応 |
---|---|---|
グリセリン | 吸湿性の高い保湿剤 | 刺激・発赤・ACD(まれ) |
ソルビトール/ソルビタン | 糖アルコール系保湿剤 | 接触蕁麻疹報告あり |
コラーゲン(加水分解) | タンパク性保湿剤 | アレルギー性接触皮膚炎の報告あり |
ヒアルロン酸 | 高分子保湿成分 | クリームで接触湿疹例あり(稀) |
スクワラン | 油性保湿剤 | 刺激性は低いが、個体差あり |
もちろん、これらの成分は通常の肌であれば安全です。
問題は「すでに荒れている皮膚」や「敏感肌」の場合です。
皮膚バリアが壊れていると、ほんの微量の添加剤でも過剰に反応してしまうことがあります。
■“やわらかティッシュ”が合わない人の特徴
薬局で患者さんを見ていて感じていたのは、次のような傾向です。
- アトピー性皮膚炎や乾燥肌がある
→ 皮膚バリアがもともと弱い。 - 花粉症や鼻炎で頻繁に鼻をかむ
→ 摩擦刺激が繰り返される。 - ローションティッシュを1日に何十回も使用
→ 成分が皮膚に長時間触れる。 - 鼻周りにワセリンなどの保護剤を塗っていない
→ 紙と皮膚が直接こすれる。
こうした条件が重なると、赤み・かゆみ・皮むけ・ピリピリ感などが出やすくなります。
皮膚科では「刺激性接触皮膚炎」または「アレルギー性接触皮膚炎」と診断されるケースが多いようです。
■比較的安全な製品はどれ?
調べていく中で、これらの保湿成分が入っていないけれども紙自体が柔らかいものとして「スコッティ カシミヤ」という製品にたどり着きました。
こちらはピュアパルプ100%・塗工なし(ローション加工なし)のティッシュで、やわらかさは紙の構造によって出しているタイプです。
つまり、「肌触りは良いが保湿成分は塗られていない」製品。
蛍光染料不使用という記載もあり、保湿ローションによる刺激リスクは低いと考えられます。
皮膚が敏感な方には、こういった“無保湿タイプの高級ティッシュ”が適しているのではないでしょうか。
あとはこんな商品も。
★(公式サイト)橋本クロス オーガニックコットンティッシュ
他にも探せば色々良い製品があるかと思います。
再生紙よりピュアパルプ100%(初めて加工されたパルプのこと)の方が刺激が少ないのではないでしょうか。
■薬局での対応:私が提案したこと
私がカウンターでその患者さんにお伝えしたのは次の3つのポイントです。
① 保湿成分入りティッシュは一度中止
現在使用しているティッシュを確認してもらい、もし保湿成分が使われているようであれば数日間お休みしてもらい、代わりに以下のような無添加・無塗工ティッシュを提案しました。
これらは、香料・ローション・蛍光剤などが含まれておらず、刺激を最小限に抑えられる可能性が高いです。
② ワセリンで「バリア」をつくる
ティッシュを使う前に、ワセリンを薄く塗るようアドバイスしました。
ポイントは「厚塗りしない」こと。
鼻をかむたびに軽くティッシュで押さえて、必要ならその都度少量を塗り直します。
これだけで摩擦が減り、皮膚の再生も早くなります。
③ 皮膚科の外用薬は“短期集中”で使う
ステロイド外用薬は、炎症が強いときは一時的に有効です。
「怖い」と思う方もいますが、短期間・適量使用であれば安全。
炎症が落ち着いたら、保湿と保護を中心に切り替えていきます。
■“刺激ゼロ”のティッシュは存在しない
ティッシュはあくまで「紙」です。
どんなにやわらかくても、物理的な摩擦は避けられません。
ですから、「刺激をゼロにする」ことよりも、「肌のバリアを守りながらうまく使う」ことが大切です。
以下のような習慣が効果的です:
- 鼻を“こする”ではなく“押さえる”
- 一度に強く拭かず、軽く何度かに分けて
- 家では加湿器を使って乾燥を防ぐ
- ティッシュを選ぶ際は「ローション無添加」「蛍光剤不使用」を目安に
- 鼻をかむ前にワセリンで保護膜を作る
■一歩深く:保湿成分と肌の化学的反応
ここで少し専門的な話を。
「保湿剤が入っているのになぜ炎症を起こすの?」と疑問に思う方もいるでしょう。
実は、保湿剤の多くは角層内の水分を保持する働きがあります。
しかし、角層が壊れている状態では、これらの成分が真皮にまで浸透しやすくなり、免疫細胞(特にLangerhans細胞)を刺激して炎症反応を起こすことがあります。
これが“刺激性接触皮膚炎”や“アレルギー性接触皮膚炎”のメカニズムです。
また、糖アルコール(ソルビトールなど)は吸湿性が高く、乾燥した環境では逆に皮膚から水分を奪ってしまうことも。



健康な皮膚には優しくても、荒れた肌には刺激になる可能性があります。
■薬剤師として伝えたいこと
医師の処方薬だけでなく、日用品や生活習慣が皮膚症状に影響することは多々あります。
患者さんにとっては「いつも使っているティッシュ」が原因になるとは思いもよらないもの。
しかし、実際にはそれが炎症を長引かせる要因になることもあるのです。
薬局では薬を渡すだけでなく、
「この症状、もしかしたら生活の中に原因があるかもしれません」とお伝えすることも多いです。
薬から一歩離れて考えることで、患者さんの回復スピードが変わることはよくあります。
■まとめ:肌にやさしい“ティッシュ選び”について
チェック項目 | 推奨される選択 |
---|---|
ローション加工 | なし(無塗工タイプ) |
原料 | ピュアパルプ/竹パルプ/再生紙など |
添加物 | 香料・蛍光剤・漂白剤など |
使用前のケア | ワセリン薄塗りでバリア作成 |
使用方法 | こすらず押さえるように拭く |
もともとが敏感肌という方はこういったところに注意すると良いと思います。
■最後に
今回のケースの患者さんも、ティッシュを変更し、ワセリンを使うようにしたところ、数日で赤みと痛みが落ち着いたとのこと。(もちろん一時的ですが処方された塗り薬もきちんと使用したそうです)



まさかティッシュで肌が荒れるなんて思ってもみなかった!
と驚かれていましたが、
それ以来、「鼻を守るティッシュ選び」を心がけてくださっているようです。
昨今は一年中何かしらのアレルギーに悩まされることが多いですね。ティッシュが手放せないという方も多いと思います。
もし鼻のまわりの炎症が長引く方がいれば、ぜひティッシュ選びを見直してみてください。
その一枚が、あなたの肌を救うかもしれません!