いつも薬局が終わる頃にやって来る、60代のガテン系のおじさんがいます。
小柄だけれど、仕事でしっかり体を動かしているからか、筋肉がついていて存在感があります。そのため、薬局に入って来るといつもすぐに気づきます。
「ガテン」とは、昔あった就職情報誌の名前が由来です。元々は“合点いく”、“合点いく仕事をしよう”という意味から来ており、建築、土木、ドライバーなど体を使った仕事をする方たちを“ガテン系”と呼ぶようになったそうです。
そのおじさんは自分の病歴を包み隠さず、面白おかしく話してくれます。本来なら笑うべきではない話も、彼の話術によって思わず笑ってしまうほど。その“自分の病気を面白さに変える”という特技には、本当に感心します。
そんな彼のことを、スタッフ一同大好きなんですよね。ですが、先日薬局に来たとき、何か違和感を覚えました。
オジサンがいつもより小さく見えた
処方箋を受付け、お薬手帳を確認すると…抗がん剤が処方されていました。
彼は約2カ月に一度、薬局にやって来ます。前回、前々回の来局時から少し体調の変化を口にしていたのですが、その“変調”は誰しもが感じるような軽いものでした。しかし、それが今回の病気「大腸がん」の前兆だったのです。
ドクターはその変調を一時的に和らげる薬を処方してくれ、彼自身もそれで落ち着いていたので大事には至らないと考えていたようです。しかし、そのままにしてはいけなかった。
ある日突然、オジサンは高熱を出したとのこと。
休日でかかりつけの病院は閉まっていたこともあり、病院に行くことをためらったそうです。でも体が辛くてどうしようもなく、救急病院を受診したところ“敗血症”と診断され、即入院となったそうです。
敗血症とは、体の傷ついた部分から菌が入り込み、血液中に毒素が流れ続ける状態のこと。
少量の毒素であれば免疫が排除できますが、毒素が多すぎると体が負けてしまい、全身症状を引き起こします。このとき、体は菌や毒素に抵抗するために発熱します。
彼は抗生物質を使って治療を受け、何とか一命を取り留めました。そして、その原因を調べた結果、今回の病気(大腸がん)が発覚したのです。
退院後、体重は7キロ減。入院中、筋肉が落ちて体のハリが失われ、以前より一回り小さく見えたというわけです。
そして、ここから抗がん剤を主に使用した病気の治療が始まります。
オジサンはいつも「見て見て!今回の血液検査の結果!」と明るく話してくれました。
薬局でも血液検査結果を一緒に確認し、特に大きな異常がないように見えていたのですが、そんな状況でも病気は進行していたのです。症状といえば急に始まった便秘くらい。痛みや出血、食欲不振、倦怠感などは一切なかったそうです。
本当に、なぜ気づけなかったのか
オジサンの変化をキャッチできなかったことに、大きなショックを受けました。
明るく元気で、仕事を一生懸命し、みんなと楽しそうに過ごしてきたオジサン。健康的な生活を送っているように見えましたが、見えない部分で病気は進行していました。
私はこれまで、彼に「バランスよく食べて、楽しく過ごしてください」と伝えていました。それでも、「どうせ食べるなら、こんな風に工夫するともっと長く人生を楽しめる」とアドバイスをしてきました。
オジサンの体型的に、口にするのを控えたほうが良いものはあります。
薬剤師として、正しい指導を行うのは当たり前なのですが、時にはその“正しさ”だけでは患者さんに寄り添えない場面もあるのです。。
薬を使うかどうかは最終的に患者さんの意思ですが、正しい情報を伝えることで、患者さんが自分に必要な選択をできるようにする。それが薬剤師としての大切な役割だと感じています。
しかし・・今回の事は今振り返ると「急に始まった便秘」がサインだったのですよね。
薬を勧めない薬剤師としての役割
私はなるべく薬に頼らず、他の方法で健康を維持できる提案をしたいと思っています。
しかし、それも患者さんの状況やタイミングに応じて柔軟に対応すべきだとも感じます。必要な薬は適切なときに使い、それ以外の方法も選択肢として提案する…。そんな薬剤師でありたいのです。
さいごに
この記事を読んで下さっている皆さんも、体の些細な変化を見逃さず、健康診断や定期的な検査を受けることを心がけてください。また、健康について相談できる信頼できる専門家を見つけることが大切です。お薬に頼る前にできることもたくさんあります。一緒に自分に合った健康法を探していきましょう。
※今回のお話はご本人の許可を得て掲載させていただきました